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【インタビュー】永吉頭取に聞く、全自動銀行の衝撃「レガシーシステム」を捨てる決断: みんなの銀行が挑む日本初のデジタルバンク戦略

  • 執筆者の写真: 橘 優斗
    橘 優斗
  • 12月12日
  • 読了時間: 13分

経済産業省 石井芳明

日本初のデジタルバンク「みんなの銀行」の戦略。「150年にわたる増改築」問題から脱却し、BaaSとWeb3を見据えた全自動銀行の設計思想を頭取が語る



INDEX








  1. 日本初の「デジタルバンク」設立の背景と決断


――同じふくおかフィナンシャルグループ(FFG)傘下の福岡銀行とは全く別の組織として、デジタルバンクをゼロベースで構築することを決断した理由は何ですか?


永吉: 大きなきっかけは二つあります。


一つは、構造的な課題への直面です。少子高齢化、特に地方における人口減少のスピードは非常に速く、それに伴い金融資産が都市圏へ流出するという課題があります。


そしてもう一つが、将来への強い危機感です。将来の主力顧客となる30代以下のデジタルネイティブ世代が、10年後、今の銀行が提供するサービスについてきてくれるのか。規制緩和が進み、銀行以外の多様なプレイヤーが金融サービスを提供する中、この新しい世代のニーズに応えるには、従来のやり方では限界があると考えました。



既存システムからの脱却:「150年にわたる増改築」問題


永吉: 新しいビジネスをFFGの福岡銀行で行うという選択肢もありましたが、現在の技術トレンドとスピード感を考慮すると、それは現実的ではありません。既存の銀行システムは、言うなれば150年の歴史を持つ巨大な温泉旅館のようなものです。長年にわたり増改築を繰り返した結果、他にはない伝統と格式という趣がある一方で、内部は迷路のように複雑化しています。。この旅館(システム)を改修しながら中、新しいお客さまをスムーズにお迎えするための新しい部屋(商品・サービス)を、安全かつスピーディーに開発・提供することはできないのです。


そこで、既存の銀行を時間をかけてDX(デジタルトランスフォーメーション)するよりも、ゼロからデジタルに特化した新しい銀行を立ち上げる方が、世の中のスピード感に追いつけるという結論に至りました。


我々の「みんなの銀行」は、「既存の銀行をどうDXするか?」という発想ではなく、「デジタルを起点に、どんな銀行サービスを提供できるか?」という、従来の銀行とは全く逆の発想で作り上げた、日本初のデジタルバンクです。


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  1. 最小限の機能と外部連携で築くエコシステム戦略


――先行するネット銀行はIT企業とのジョイントベンチャーが多い中、「みんなの銀行」を単独のブランドとしてゼロベースで立ち上げた狙いを教えてください。


永吉: 特定の企業と組むという発想は、立ち上げ当初からありませんでしたが、銀行にはシステムを自前で開発する能力はもともと備わっていません。そこで今回は、ベンダーと一緒にシステムを構築するプロセスの中で、内製化を進めることを前提としました。最初はベンダーが100%担う体制からスタートし、徐々に自分たちが100%の内製化する体制に移行していくという考え方で進めており、現在、内製化率はすでに7割ほどになっています。



エコシステム戦略:あえて「持たない」銀行へ


永吉:また、我々は銀行としてあえてミニマムな機能しか持たないようにしています。例えば、保険や投資信託といった商品は扱っていません。これらの商品には、専用のシステムや販売体制といった非常に重いコストが伴い、単体では収益を上げるのが難しい事業体になりがちだからです。


そこで我々は、デジタルと相性の良いビジネスを展開している証券会社や保険会社などとパートナーシップを組んでデジタル上で連携します。互いを繋ぐことで、金融として一体的でシームレスなサービスを構築するというエコシステム戦略で事業を進めています。


――それはBaaS(Banking as a Service)的なアプローチということでしょうか?


永吉:はい、おっしゃる通りです。金融機能をAPIで提供する銀行側から見れば「BaaS」であり、それを自社のサービスに組み込む事業者様の側から見れば「エンベデッドファイナンス(組み込み型金融)」となります。これらはまさに表裏一体の関係です。そして、このBaaSという仕組みを核として、様々な事業者様とパートナーシップを組み、一体的でシームレスなサービスを作り上げていく。そうして生まれる新しい金融体験の世界こそ、我々が目指す「エコシステム」そのものなのです。


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  1. 全国展開を見据えたブランド戦略とBaaSへの注力


――あえて「福岡銀行」の名前を出さず、「みんなの銀行」というブランドにした理由を教えてください。


永吉: まさに、地域に限定しないという方針が理由です。地方銀行は基本的に地域の名前が付いているため、その地域内ではブランドの元に顧客が付いていますが、サービスをデジタル化した瞬間に、全国どこからでもアクセスできるようになります。究極的には海外からでも利用してもらえる仕組みになっていくわけです。


このように面を広げていく上では、逆に「九州」や「福岡」といった地域名は、ブランディングの観点ではかえって制約になると考えました。北海道の方が「福岡」の名前がついたデジタルサービスを見ると、違和感を覚えるかもしれない。したがって、最初からブランドは既存の銀行とは完全に分離して展開するという方針を採りました。最初から全国規模、そして将来的には海外も視野に入れたオープンな展開を想定しています。


――その発想に基づき、BaaS(Banking as a Service)にも相当力を入れているように見受けられます。


永吉: はい、力を入れています。我々のB2C(一般の個人のお客様)向けに提供している機能は、すべてマイクロサービス化されており、APIの塊のようになっています。そのため、ある事業者が「この機能を自社のデジタルチャネルに組み込みたい」というニーズがあれば、それをAPIとして切り出し、外部に提供することができます。我々のサービスに備わっているのは必要最低限の機能のみですが、裏を返せば、それを自由に組み合わせて使っていただけるということです。


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  1. BaaSの二つの柱:API型と「パートナー支店」の戦略的使い分け


――BaaSにはAPI型のものとパートナー支店型があると思いますが、どのように使い分けているのでしょうか?


永吉: 「パートナー支店」と「API」は、そもそも目的と仕組みが異なります。

モデル

目的・位置づけ

仕組みとメリット

パートナー支店

マーケティングモデル。顧客基盤とブランド力を持つ事業会社と連携し、その顧客層に愛着を持って使ってもらう

口座開設時に情報の共同利用に同意いただくことで、銀行のデータと事業会社のデータを組み合わせ、複合的なマーケティング(独自のポイント付与、プッシュ通知など)が可能。API連携へつなげるための「入口」という位置づけ。

API(連携)

事業会社が自社のチャネルに金融機能を組み込んでいくための仕組み。

組み込みたい機能(決済、預金、融資など)をAPIベースで提供。こちらはコスト削減や収益への貢献といった本質的な効果が期待できる。

――現在は、どちらの採用が多いですか?


永吉: 単純な割合ではなく、戦略的な位置づけで使い分けられています。大きな顧客基盤とブランド力を持ち、我々の銀行機能・サービスを自社サービスに組み込んで使いたいというニーズを持つ事業者様は、まずパートナー支店を、次にAPI連携を採用いただくケースが多いです。我々は、パートナー支店をその後の機能連携やAPI連携につなげるための「入口」と捉えているため、基本的にAPI連携とセットで取り組んでいただきたいという方針です。


現在、BaaSパートナー企業は28社(2025年11月時点のMOU締結先とサービスリリース先)に拡大していますが、事業者様の多くがパートナー支店とAPI連携の両方を選ばれています。


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  1. BaaSのコア機能:コスト優位性を持つA2A決済


――「みんなの銀行」自身が今最も力を入れている顧客層は個人(B2C)口座という認識で合っていますか?


永吉: はい、その通りです。我々がネイティブで展開しているサービスはB2C(個人向け)の金融サービスです。そして、BaaS事業では、エンドユーザーが個人である事業者様と連携し、その事業者様のお客様(個人)に対して金融機能を提供しています。したがって、事業モデルとしてはB2B2C(企業から企業、そして個人へ)という形になっています。


――導入された企業が最も利用している機能は何でしょうか?


永吉: 顧客基盤や事業規模が大きくなればなるほど、決済に関する課題感をお持ちの企業が多いです。特にECビジネスを展開されている事業者様は、キャッシュレス決済比率が年々増加しており、それに伴いコストとしての決済手数料も高くなりがちです。


こうした事業者様に対し、我々の口座間決済(A2A決済:Acount to Acount決済の略で、銀行口座からダイレクトに購入代金などを支払う仕組み)を提供することで、以下の大きな価値を提供できています。


1.     コストの削減: 決済に係る中間事業者がいなくなることで、決済手数料を大幅に安くできます。

2.     スピードの向上: 売上がリアルタイムで事業者様に入金されるため、資金化のタイムラグがなくなります。



A2A決済の優位性


――A2A決済は、デビット決済などの既存の手法と比較して、コスト面での優位性が高いのですね?


永吉: その通りです。我々の仕組みの大きなメリットは、キャッシュレス決済の仕組みにカードブランドや決済代行事業者といった仲介者が入らないため、その分のコストを大幅に下げられるという点にあります。浮いたコストは、事業者様の経費削減に充てていただいたり、顧客に還元することで、購買頻度や単価の向上につなげることができます。


このように、自社と顧客が直接繋がることで、「コスト削減 → 顧客還元 → 購買促進」という好循環を生み出すことができるモデルだと考えています。


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  1. 全自動銀行の実現:UI/UXとスピードへの徹底的なこだわり


――「スマホファースト」という点において、御社が相当先行されている印象です。UI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザー体験)の部分は、相当力を入れて取り組まれたのでしょうか?


永吉: はい、デザイン性や操作性には非常にこだわって作っています。まず、「見た目が銀行らしくない」ことを出発点にしていますし、サービスの操作性に関しても、これまでの銀行にはなかった工夫を凝らしています。例えば、ドラッグ&ドロップでお金を動かせるといった機能もそうです。これは、想定しているユーザーがデジタルネイティブな若い世代だからです。若い世代にとって使いやすいと感じてもらえることを最優先しました。



圧倒的な口座開設スピード


――口座開設から全ての銀行取引まで、すべてスマートフォンアプリで完結するのでしょうか?


永吉: はい、そうです。一切、通帳も印鑑も必要ないので郵送物もありません。


「使えるようになるまで」のスピードには圧倒的な優位性があります。我々が強みとしているのは、24時間365日、いつでも口座開設ができ、その場ですぐに使えるようになる点です。先日、JPKI(公的個人認証サービス)に対応したことで、現在は最短で3分程度で口座開設が完了する方も出てきています。夜中の2時や3時に思い立って口座を作っても、作った瞬間からすぐに使えます。



「ネット銀行」ではなく「デジタルバンク」


――そこまで完全にスマートフォンで完結させているのは、御社だけではないでしょうか?


永吉: そうかもしれません。それが、まさに「デジタルを前提に銀行を作る」というアプローチをしているからです。


従来のネット銀行と我々デジタルバンクは、「店舗や窓口などの有人チャネルがない」という点においては同じように見えるかもしれません。しかし我々は、デジタルを起点に「人のプロセスや紙のプロセスを、どうしたら『ない状態』で銀行取引ができるか」という思想で設計しています。我々の銀行の裏側で人がオペレーションする工程は実質的にありません。我々は、まさしく「全自動銀行」と呼べる、完全に自動化されたオペレーションを実現しています。


これらは「既存のレガシーな勘定系システムの制約に縛られなかった」ことが非常に大きいです。業務プロセスから不要なものを全て削ぎ落として作ることができたからこそ、私たちは「日本初のデジタルバンク」であり、「ネット銀行ではない」と発信し続けているのです。


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  1. テクノロジー戦略:マルチクラウドと優秀なエンジニアの確保


――全てのシステムを、最初の段階からクラウド化されたのですね。


永吉: はい、そうです。基幹システムはGoogle Cloud に載せています。ただし、我々はマルチクラウド戦略を採っており、AzureやAWSも使っていますし、Oracleも活用しています。基本的にフルクラウド、マルチクラウドで構築しています。


――Google Cloud を日本の金融機関で初めて使ったというのも特徴的ですね。


永吉: その通りです。金融機関は実績主義なので、当初はAWSが採用実績も多く社内でも有力な選択肢でした。しかし、どうせゼロからスタートするなら、自分たちが実現したいシステムを創ろう、万一立ち上がりがうまくいかなくても最初は顧客もいないわけですから、新しいものに挑戦できる。こうした考え方で、Google Cloudの採用を決めました。


究極的には「最初は顧客がいない」という割り切りでしたが、新しいテクノロジーやシステムを作ること、内製のためにエンジニアを採用することに意味がありました。優秀なエンジニアは、新しい技術を使って面白いことができる環境に惹かれるため、初期の頃は「Google Cloud上に金融機関を作る」といった触れ込みだけでも、多くの優秀なエンジニアが集まりました。



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  1. 今後の展望とWeb3への取り組み



――ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)として、地元である九州エリアの顧客への対応はどのようにされていますか?


永吉: 最初の段階では、相互の営業協力は全く行っていませんでした。実際、現在のユーザーのうち、九州内での重複は全体の1割程度です。


しかし、ここ最近は「金利のある世界」になり、ネット銀行や他の地銀で高い金利を宣伝するケースが増えています。その影響で、グループ銀行のお客様の中にも「金利が低いから他の銀行に移そう」という方も出てきています。


これに対して、グループとしては逆にチャンスと捉えています。窓口に来て「定期預金を解約して他行に振り込みたい」と言うお客様に対して、「同じグループ内の銀行で、最短5分で口座開設でき、定期預金のように高い金利で出し入れも自由な(みんなの銀行の)貯蓄預金があります」と提案できるわけで、このようなニーズがあれば、積極的に対応するようにしています。


――今後の計画として、予定している機能やサービスはありますか。


永吉: これからの世の中のトレンドや変化のスピードに、どれだけ対応していけるかが課題です。すでに発表しているものとしては、ステーブルコインやWeb3の世界に関連する取り組みがあります。デジタルバンクとして、新しい金融の仕組みや経済圏をどのように作れるか、どのように触れられるかを、現在は、R&D(研究開発)しながら検討しているところです。


――ステーブルコインなどの実用的な用途は、現時点では限定的ということでしょうか。


永吉: そうです。みんなの銀行ではA2A決済のようにコストをほぼゼロに近く提供できる仕組みがあるため、ステーブルコインを決済目的で利用するニーズは、現時点では限定的だと考えています。現在は、企業が社内のキャッシュマネジメントシステムで利用するのか、海外送金で利用するのかなど、用途はまだ模索段階です。今はニーズを探りながら検討しているところです。




経済産業省 石井芳明

株式会社みんなの銀行

取締役頭取

永吉 健一

株式会社みんなの銀行の取締役頭取を務める金融実務者兼起業家。九州大学法学部を卒業後、1995年に福岡銀行に入行し、経営企画や統合プロジェクトなどを担当した。社内ベンチャーとして立ち上げた「iBankマーケティング」では、銀行外のデジタル金融プラットフォーム開発を推進。2021年5月に「みんなの銀行」がサービスを開始し、2022年4月より現職を務めている。現在は、金融とテクノロジーを融合させた「BaaS」「Web3」「クラウド型銀行システム」の構想・推進にも注力している。






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