Google Cloud、JR東日本のタッチトリガー導入事例を公開


Google CloudがJR東日本の「タッチトリガー」導入事例を公開。改札タッチ起点の配信基盤にSpannerなどを使う。
Google CloudがJR東日本の「タッチトリガー」導入事例を公開。改札タッチ起点の配信基盤にSpannerなどを使う。
Google Cloudは9月28日、公式ブログでJR東日本の「タッチトリガー」の導入事例を公開した。タッチトリガーは、Suicaの改札タッチを起点に乗客のスマートフォンへ情報を届けるサービスである。データ基盤にはGoogle CloudのSpannerとCloud Runが採用されている。
改札タッチを起点に情報を届けるサービス
タッチトリガーは、改札機の入場・出場の瞬間を検知し、そのデータを連携先の事業者へ配信する仕組みである。連携先は、受け取ったデータを合図に自社のサービスを提供する。
在来線で取得できる情報は、改札通過駅名、入場・出場の別、利用日時、定期券の種別と区間である。新幹線では、入場・出場の別、改札通過日時に加え、新幹線eチケットの利用時にはえきねっとの予約情報も対象となる。
Suicaの累計発行枚数は2001年のサービス開始以来1億2,000万枚を超える。JR東日本の乗降客数は1日約1,600万人である。同社はSuicaの利便性を高め活用範囲を広げる「Suica Renaissance」構想を進めており、タッチトリガーはその中核技術の一つに位置づけられている。

コロナ禍を契機に開発、基盤のクラウド化が課題に
開発の背景には、コロナ禍による鉄道利用者の大幅な減少がある。移動を前提とする事業の見直しが必要となり、利用者の生活に寄り添う新たな価値提案の手段として構想された。同社はタッチトリガーを、生活の利便性や快適さを高めるための「コミュニケーション機能」と位置づけている。
従来、改札のデータ処理は各改札機での処理と社内のオンプレミスシステムが中心だった。首都圏の通勤ラッシュ時でも改札で滞留を生じさせないため、Suicaは0.2秒での処理を前提に設計されている。一方で、グループ内の複数部署が横断的にデータを活用するには、運用基盤のクラウド化が必要だった。JR東日本は改札処理のセンターサーバー化を進めており、これによってタッチデータをリアルタイムに取得できるようになった。タッチトリガーもこの動きに合わせて構築された。
SpannerとCloud Runを選んだ理由
クラウド移行にあたっての技術要件は厳しかった。山手線内の駅だけで1日のタッチ数は数百万回にのぼり、ラッシュ時には平常時の10倍に増える。急増するトラフィックへの対応と、データを瞬時に記録する書き込み性能が求められた。
JR東日本は複数のクラウド型データベースで検証した。一般的なRDBは処理能力に上限があり、要件を満たせなかった。Spannerはデータを自動で振り分けながら高い整合性を保てる。Cloud Runと組み合わせると、乗客数の増減に応じてほぼ遅延なく自動でスケールできることも確認された。テスト実装の段階で想定どおりの性能が出たという。
実装では、年代、利用駅、購買履歴といった属性とマーケティング上の目標を瞬時に掛け合わせる必要があった。Spannerは独自のインデックス設計を採用しているため、データの加工が求められる。この点ではGoogle Cloudのサポートチームが技術支援を行った。開発チームは処理速度とコストの最適化手法を習得したほか、分析クエリの実行時にリソースの競合を避ける「Data Boost」の活用方法も取り入れた。利用サービスにはこのほか、Cloud Logging、Cloud Tasks、Cloud Scheduler、BigQueryが挙がっている。
イベント、まちづくり、新幹線での活用例
最初の活用は、毎年開催される体験型イベント「山手線謎めぐり」である。2024年はSuicaをタッチすると駅に応じたコンテンツが配信される仕組みが採り入れられた。2025年にはスマホゲーム「みんなのトレインタウン」で、ミッション達成条件に改札タッチが組み込まれた。
2025年に開業した「TAKANAWA GATEWAY CITY」では、アプリとSuicaを連携したユーザーに、改札を出た時点で施設内店舗のドリップコーヒーが当たるクーポンを配信する実証実験が行われた。用意した800袋は4日間で配り終えた。
2026年3月には大井町駅でコンビニエンスストアNewDaysと連携し、おすすめ情報やクーポンの配信が始まった。この施策は、NewDaysアプリに登録したSuicaで対象駅の改札を通ると、通知が週1〜2回程度届く仕組みである。通知は改札タッチから最短1時間後を目安に届く。対象は山手線内37駅で、大井町は2026年3月28日から加わった。JR東日本管内の新幹線55駅では、期間限定で実施されている。
新幹線では、2025年に群馬県内の交通手段を結ぶスマホ向けサービス「GunMaaS」と連携し、高崎駅で降りる乗客にタクシーを配車する試みが始まった。乗車便の時間や目的地、車内での滞在時間を事前に把握できるため、乗車中のコンテンツ案内から到着後の移動手段の手配まで、一連の提案が可能になる。
展開状況と今後の予定
時期 | 内容 |
2024年 | 山手線内の全駅で実装。「山手線謎めぐり」で初活用 |
2025年 | 「みんなのトレインタウン」との連携、TAKANAWA GATEWAY CITYでの実証実験、GunMaaSと連携した高崎駅でのタクシー配車の試み |
2026年3月 | 大井町駅でNewDaysと連携した情報・クーポン配信を開始 |
2028年 | 新たな「Suicaアプリ(仮称)」のリリースを見込む。JRE IDの一本化を進めており、1対1のコミュニケーションが可能になる見込み |
JR東日本が以前公表した計画では、2028年度にSuicaエリアの全駅へ対象を広げ、タッチからデータ提供までのタイムラグも縮小する方針が示されていた。今回の事例紹介では、グループ外の企業とも実証実験を進める予定であることが明かされている。連携時には利用者の同意を得たうえで、情報を必要な範囲に限って扱うとしている。価格に関する情報は示されていない。
改札データの活用は「基盤の刷新」から次の段階へ
タッチトリガーは、Suicaの処理をセンターサーバー化することで、改札の入出場データを外部サービスの起点にできるようにした点に特徴がある。今回の事例は、その負荷に耐えるデータ基盤としてSpannerとCloud Runが実運用に使われていることを示した。一般的なRDBでは要件を満たせなかったという検証結果は、大量の書き込みが集中するサービスのデータベース選定の参考になる。
一方、現時点の連携では、通知が届くまでに時間差がある。データ提供の最大タイムラグは15分程度と公表され、NewDaysの通知は最短1時間後が目安である。タッチの瞬間に反応する体験と、実際の配信の間にはまだ差がある。2028年度に向けたタイムラグの縮小とSuicaアプリ(仮称)の提供が、この差を埋められるかが焦点となる。
行動に関わるデータを扱うため、利用者の同意取得と情報の取り扱い範囲が、連携先の拡大に伴って重要性を増す。グループ外企業との実証実験が広がるほど、同意の取り方や利用目的の説明のわかりやすさが、サービスの受け入れやすさに影響するとみられる。
(Source:Google Cloud ブログ)




